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イギリスと日本の電気工事士、ココが違う!資格制度と働き方の意外な差

はじめに

「電気工事士」という職業は、国ごとに資格制度や働き方のルールが異なります。
日本では国家資格が強い存在感を持ちますが、イギリスでは民間スキームや職能資格を中心に運用されています。

今回は、イギリスと日本の電気工事士を徹底比較し、それぞれの良さと課題を探ります。
日本の「国家資格による明確なルール」と、イギリスの「柔軟だが複雑な仕組み」。両者を並べると、それぞれの強みと弱点が見えてきます。


イギリスの電気工事士制度の基本構造

Electricianと資格ルート

イギリスでは「Electrician(電気工)」と呼ばれます。日本のような「第一種」「第二種」という国家資格の区分はありません。
代わりに、以下のような職能資格・登録制度を組み合わせてキャリアを築きます。

  • NVQ Level 3(National Vocational Qualification)
    電気工として現場に立つための代表的な資格。職業訓練校や実務経験を通じて取得します。

  • ECSカード(Electrotechnical Certification Scheme)
    資格・安全教育を受けていることを示す「現場入場証」のようなもの。NVQなどの資格と併用されます。

  • Part P(建築規制)
    住宅の特定工事は「通知対象工事」とされ、NICEICやNAPITなどの認証団体に登録し、自己認証が可能になります。

つまり、イギリスでは「民間団体による登録」と「国家的な規格(建築基準法)」が絡み合い、実務の資格体系を形成しています。

技術規格:BS 7671(IET配線規程)

日本の「電気設備技術基準」にあたるのがBS 7671(IET Wiring Regulations)
住宅から産業施設まで、イギリス国内の電気設備はこの規格に従って設計・施工されます。


日本の電気工事士制度の基本構造

国家資格モデル

日本では「電気工事士」は国家資格として制度化されています。

  • 第一種電気工事士:高圧電気・大型建物・工場まで対応

  • 第二種電気工事士:住宅・小規模店舗の工事が中心

国家資格があることで、消費者も「資格保有者かどうか」を明確に確認できます。

試験と信頼性

  • 筆記試験と実技試験がセット

  • 毎年数万人が受験し、合格率は40〜60%前後

  • 国家試験であるため、全国で基準が統一されている


給与水準の比較

  • 🇬🇧 イギリス:年収中央値 約38,000ポンド(約720万円)

  • 🇯🇵 日本:年収中央値 約550万円(求人ベースでは370万円程度)

イギリスは日本よりやや高い水準です。
ただし、イギリスでは自営業者が多く、**「稼ぐ人は稼ぐ」「そうでない人は低め」**という幅があります。
一方、日本は資格制度に守られた「平均的に安定した給与」という特徴があります。


働き方の違い

イギリス

  • 自営業・契約ベースのElectricianが多い

  • 独立すれば高収入も可能だが、収入の安定性には欠ける

  • 認証団体に登録することで住宅工事を自己認証できる(Part P)

日本

  • 施工会社に所属するケースが一般的

  • 雇用が安定し、社会保険などの福利厚生も整う

  • 独立開業は30代以降が多く、実務経験+第一種資格が前提


イギリスの課題

技能職不足

若者が大学進学を選ぶ傾向が強まり、一方で住宅や再生可能エネルギー分野の需要は拡大中。その結果、電気工の供給不足が慢性化しています。

資格ルートが複雑

NVQ、ECSカード、Part P、認証団体……。複数のルートが存在し、消費者からすると「誰に頼めば安心か分かりにくい」という声が出ています。

自営業のリスク

独立すれば高収入も狙える反面、顧客獲得・保険・契約管理をすべて自分で行う必要があります。稼げる人とそうでない人の格差が大きいのも特徴です。


日本の課題(再考察)

国家資格の質の低下懸念

国家資格は確かに信頼性がありますが、**有資格者人口を確保するために出題基準が下がってきているのでは?**という現場からの声もあります。

資格マニア問題

資格そのものをコレクションのように取得する人も増えており、「資格はあるけれど現場経験がない」ケースが課題になっています。

マッチングプラットフォームの影響

施工者と消費者を直接つなぐマッチングサービスは便利ですが、

  • 実務経験が浅い施工者の増加

  • 価格競争による単価低下

  • 技能より営業力が優位になる現象

といった影響もあり、現場からは「価格と技術のバランスが崩れている」との懸念が出ています。


両国を比べて見えること

イギリスの強み

  • 柔軟なキャリアルート

  • 高収入を狙える独立環境

  • 欧州規格に準拠した国際的な施工基準

イギリスの課題

  • 資格制度が分散して分かりにくい

  • 自営業中心のため安定性に欠ける

  • 技能職不足による人材供給の遅れ

日本の強み

  • 国家資格による明確で安心な仕組み

  • 雇用の安定と福利厚生

  • 消費者が依頼しやすいシンプルさ

日本の課題

  • 給与水準の低さ

  • 若年層の定着率の低さ

  • 女性・多様性の参入遅れ

  • 国家資格の形骸化懸念

  • マッチングサービスの課題


まとめ

イギリスと日本の電気工事士を比べると、

  • イギリスは「自由度と高収入の可能性」

  • 日本は「安定と信頼の国家資格」

というコントラストが見えてきます。

日本は資格制度が強みですが、質の低下や市場の変化にどう対応するかが課題。
イギリスは柔軟な制度がある反面、消費者にとって分かりにくい面や職人不足というリスクがあります。

どちらが優れているというよりも、「何を重視するか」によって適した制度は変わります。
安定を求めるなら日本型、自由と収入の伸びしろを求めるならイギリス型。
そんな見方で両国を比較すると、電気工事士という仕事の奥深さがより鮮明になります。


次回予告

次は「フランスと日本」を比較し、ヨーロッパ大陸型の仕組みを掘り下げます。
NF C 15-100や電気許容制度(habilitation)など、独自の制度と文化がどのように働き方に影響しているのかを紹介する予定です。

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