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フランスと日本の電気工事士、ココが違う!資格制度と働き方の意外な差

はじめに

「電気工事士」といっても、国ごとに資格制度や働き方の仕組みは大きく異なります。
日本は国家資格による明確な制度を持っていますが、フランスでは「habilitation électrique(電気許容)」と呼ばれる許可制を中心に制度が組み立てられています。

今回は、フランスと日本の電気工事士を徹底比較し、それぞれの良さと課題を探ります。
ヨーロッパ大陸型のフランスと、日本型の国家資格制度を見比べることで、電気工事士という仕事の多様性がより鮮明に見えてくるはずです。


フランスの電気工事士制度の基本構造

Habilitation électrique(電気許容)

フランスでは「電気工事士」という国家資格は存在しません。その代わりに、NF C 18-510という規格に基づき「habilitation électrique(電気許容)」という仕組みが設けられています。

  • 雇用者が労働者に付与する許可証の形をとります。

  • 電気設備に関わる作業をするには、必ずこの「許容証明」が必要。

  • 許容を受けるためには研修や評価を経て、知識と実務スキルが確認されます。

つまりフランスでは、「資格を持っているかどうか」よりも「雇用主がその人に電気作業を許可しているかどうか」が重要です。

NF C 15-100(住宅規格)

住宅電気設備の設計・施工に関しては、NF C 15-100という規格に基づくことが義務付けられています。
これにより、家庭用配線や分電盤の設置などが標準化され、安全性が担保されています。

職業教育と職能資格

フランスでは、高校・専門学校レベルで「CAP électricien」「Bac Pro électrotechnique」といった職能資格を取得するルートもあります。
ただし、最終的に現場で作業できるかどうかは「habilitation électrique」を持っているかにかかっています。


日本の電気工事士制度

国家資格による明確さ

日本では「電気工事士」は国家資格です。

  • 第一種電気工事士:高圧・大型設備まで対応

  • 第二種電気工事士:住宅・小規模店舗向け

資格がなければ工事に従事できないため、消費者にとって「誰が安心して依頼できるのか」が非常に分かりやすい仕組みになっています。

信頼性と課題

  • 試験は毎年数万人が受験し、合格率40〜60%程度。

  • 国家資格として全国的に統一されており、一定の品質を担保できる強みがあります。

  • 一方で「有資格者人口確保のために出題基準が下がってきているのでは?」という現場の声もあります。

  • また「資格マニア」と呼ばれる、実務経験が伴わない有資格者が増えている点も課題です。


給与水準の比較

  • 🇫🇷 フランス:平均年収22,000〜25,000ユーロ(約350万円)

  • 🇯🇵 日本:平均年収550万円(求人ベースでは370万円前後)

フランスはヨーロッパの中でも比較的低めで、生活コストを考えると「電気工は決して高収入ではない」現実があります。
一方、日本は給与は中位水準ですが、国家資格に基づいた安定したキャリア形成が可能です。


働き方の違い

フランス

  • 雇用契約に基づいて働くことが基本

  • 雇用者が労働者に「電気許容」を付与するため、会社単位で管理される

  • 自営業も存在しますが、日本やイギリスほど一般的ではありません

日本

  • 施工会社に所属するケースが多い

  • 独立開業は30代以降、第一種電気工事士+実務経験が前提

  • 国家資格が個人に直接付与されるため、独立しやすい環境がある


フランスの課題

低い給与水準

電気工は社会的に重要な職種である一方、給与水準は比較的低く、若者からの人気は必ずしも高くありません。

技能職不足

EU全体でも共通する課題ですが、建設・電気分野での人材不足は慢性化しています。
移民労働者が一定数を担っていますが、教育・技能の差が施工品質に影響することもあります。

複雑さと不透明さ

「資格」よりも「雇用主による許容証明」が重要なため、消費者にとっては「この人は本当に安心して依頼できるのか」が分かりにくい状況があります。


日本の課題(再考察)

国家資格の形骸化

有資格者人口を確保するために試験の質が下がっているのでは、という現場の疑念。
国家資格という看板が「技能を保証するもの」として揺らぎ始めています。

資格マニア問題

「資格を持つこと」が目的化し、現場経験を伴わない有資格者が施工に関わるケースも。

マッチングプラットフォームの影響

  • 経験の浅い施工者が現場に出る

  • 価格優先で工事単価が下落

  • 営業力のある人が優位になり、純粋な技能職人の地位が相対的に低下

こうした状況は、日本独自の課題と言えます。


両国を比べて見えること

フランスの強み

  • NF規格による標準化(NF C 15-100など)

  • 雇用者責任が明確で、安全意識が強い

  • 労働法制に守られており、労働者保護が徹底している

フランスの課題

  • 給与が低く、人材確保が難しい

  • 電気許容制度は分かりにくく、消費者にとって不透明

  • 移民依存による技能のばらつき

日本の強み

  • 国家資格による分かりやすさ

  • 消費者が依頼先を選びやすい

  • 独立のしやすさ

日本の課題

  • 給与水準は中位だが、技能の割に低評価との声もある

  • 国家資格の形骸化懸念、資格マニア問題

  • マッチングサービスの普及による施工単価の低下と品質リスク


まとめ

フランスと日本の電気工事士を比べると、

  • フランスは「雇用者責任と安全重視」

  • 日本は「国家資格による明確な基準」

という違いが浮かび上がります。

日本は資格制度の明確さが強みですが、その一方で「資格の質」や「市場の変化」にどう対応していくかが課題です。
フランスは安全面の制度は強固ですが、給与水準の低さや人材不足という現実があります。

どちらの制度にも一長一短があり、
「技能をどう守り、どう評価するか」が今後ますます重要になるでしょう。

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