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目次
「電気工事士」と聞くと、日本では国家資格を持った専門職をイメージする人が多いでしょう。
しかし、同じ「電気工事士」という職業でも、国が違えば制度も環境も大きく異なります。
今回の記事では、アメリカと日本の電気工事士を徹底比較し、それぞれの良さと課題を掘り下げます。
アメリカには強力な組合と徒弟制度があり、日本には国家資格による信頼性があります。
両国の違いを知ることで、これからの電気工事士のあり方について、読者の皆さんに考えていただくきっかけになればと思います。
日本では「電気工事士」は法律(電気工事士法)に基づく国家資格です。
第一種電気工事士:高圧電気設備や大型建物、工場の配線など幅広く対応可能
第二種電気工事士:住宅や小規模店舗などの低圧工事に限定
国家資格であるため、資格がなければ工事に従事できないという厳格さがあります。
資格試験は筆記と実技で構成され、年間数万人が挑戦します。合格率は40〜60%程度で、ある程度の勉強と準備が必要です。
アメリカでは「電気工事士」という国家資格は存在せず、州ごとの免許制度に基づきます。
一般的なキャリアステップは次の通りです。
Apprentice(見習い)
Journeyman(職人)
Master Electrician(監督・設計も可能)
このステップアップは徒弟制度によるもので、通常は4〜5年の実務+授業を通して進みます。
さらに、アメリカでは**IBEW(International Brotherhood of Electrical Workers)**という強力な組合が存在し、組合に加入するかどうかでキャリアの形も大きく変わります。
高収入:都市部では年収1000万円を超える例も珍しくない
福利厚生が充実:医療保険、年金、退職後の補償まで組合がカバー
雇用安定:「Hiring Hall」という仕組みで常に仕事を紹介してもらえる
組合に所属している限り、一定の生活の安定が保証されます。
自由度が高い:独立自営で働く人も多く、キャリアの選択肢が広い
収入の幅が大きい:平均年収は組合員よりやや低いが、スキルや営業力次第で組合員並みに稼ぐことも可能
リスクも大きい:福利厚生や雇用の安定は自己責任
見習い期間の給与は低め(時給15〜20ドル程度)
18〜22歳の若年層は途中で辞めてしまうケースが多い
ただし「Earn while you learn(働きながら学ぶ)」の形態で生活費を得つつ学べる点は魅力
高校や専門学校で基礎を学び、第二種取得
実務経験を積み、第一種取得
施工会社に就職 → 独立開業は30代以降が多い
国家資格の信頼性:顧客に安心感を与える
雇用の安定:会社員としての立場が基本、社会保険も整備
定時撤収の現場も増加:働き方改革により労働環境は改善傾向
給与水準がアメリカに比べて低い(年収550万円前後。求人ベースだとさらに低い)
若年層の定着率が低い(建設業全体で3年以内離職率30%超)
女性や多様性の参入が遅れている(女性比率5%未満)
国家資格の質の低下が懸念されている
有資格者人口を確保するために、出題基準が易しくなっているのでは?という声もある
国家資格の看板は強力だが、「資格と現場スキルの乖離」が指摘され始めている
資格マニア問題
資格を取ること自体が目的になり、現場経験のない有資格者が一定数存在
「資格はあるが実務は任せられない」状況が現場では課題視されている
近年は、電気工事士を消費者と直接つなぐマッチングサービスが普及しています。
依頼者にとっては便利で価格も比較しやすいのですが、次のような課題も浮かび上がっています。
経験不足の有資格者による施工
→ 国家資格を持っていても実務が浅く、仕上がりや安全面に問題が生じるリスクがある
価格競争による単価低下
→ 消費者目線の「安さ」が優先され、職人の技術料が正当に評価されにくくなっている
「職人<ビジネスパーソン」現象
→ 工事そのものより、営業やマーケティング力で仕事を獲得する人が増加
→ 技術に真剣に取り組む職人にとっては不公平感がある
こうした状況は、自由市場の進化と課題の表裏と言えるでしょう。
アメリカでは、IBEWのような強力な組合が存在し、次のような仕組みが整っています。
受注の安定:公共工事や大規模案件は組合員が中心
教育の確立:徒弟制度によって一定の技能水準を担保
福利厚生の保証:医療・年金・保険が包括的に守られる
このため、アメリカでは「価格の安さ」だけではなく「組合に属する職人=技能水準保証」という見方が一般的です。
一方、日本は国家資格制度があるものの、施工市場は完全に自由競争。
そのため、「技能の価値を安定的に保証する仕組み」が弱いとも言えます。
🇺🇸 アメリカ:年収中央値 約940万円(BLS統計)
🇯🇵 日本:年収中央値 約550万円(求人ベースでは370万円前後)
アメリカは給与が高いですが、その裏には強力な組合の交渉力や危険手当の上乗せがあります。
日本は給与は中位ですが、雇用の安定性と社会保障がセットになっているのが強みです。
個人主義文化 → 「腕一本で稼ぐ」
組合が政治的に強い → 労働者の権利意識が高い
危険や責任の重さが賃金に直結しやすい
集団主義文化 → 「会社の一員として働く」安心感
国家資格による一元管理 → 消費者が依頼しやすい
年功的な賃金体系が残り、技能差が給与に直結しにくい
高収入・福利厚生の充実(組合員)
独立や自営業の自由度
新分野(再生可能エネルギー、スマートホーム)への展開が早い
非組合員はリスクが大きく、福利厚生が薄い
若年層の離職率が高い
州ごとの制度差で統一性に欠ける
国家資格による信頼性
雇用の安定と社会保障
働き方改革による改善傾向
給与水準の低さ
若年層の定着率の低さ
女性・多様性の参入遅れ
国家資格の質の低下懸念と資格マニア問題
マッチングプラットフォーム普及による単価低下と施工品質への懸念
アメリカと日本の電気工事士制度を比べると、
アメリカは「高収入・高リスク・自由度」
日本は「安定・信頼・制度の明確さ」
という対照的な姿が見えてきます。
ただし、日本の国家資格制度は信頼性が高い一方で「資格と実務の乖離」「施工単価の低下」という新しい課題に直面しています。
一方、アメリカは組合制度による安定と高収入があるものの、非組合員や若年層にとっては厳しい現実も存在します。
これからの日本に求められるのは、国家資格の信頼性を守りながらも、
「技能を安定的に評価し、消費者に確実な施工を届ける仕組み」を再構築していくこと。
そのヒントは、アメリカの組合や徒弟制度の中に隠れているのかもしれません。
次回は「イギリスの電気工事士制度」と日本を比較します。
NVQ Level 3、Part P、BS 7671といったヨーロッパ独自の仕組みにも触れながら、また違った視点で考察していきます。