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電気工事士が感電する“7つの作業”とは? 令和6年度の事故実例を徹底分析。

令和6年度に起きた電気工事の感電・死亡災害を、実際の作業シーンで7類型に分類。共通要因と現場で使える再発防止チェックを、電工目線で徹底解説します。

 

感電注意

はじめに──事故は「たまたま」ではなく「重なり」で起きる

感電・電撃災害は、一つのミスで起きるのではなく、小さな抜けや思い込みが重なって発生します。とくに電気工事は、停電・検電・表示施錠・短絡接地という基本の一連(Lockout/Tagoutの和訳運用)が崩れた瞬間、命に関わります。本稿では、令和6年度の公表事例や報道傾向から、事故が集中した“作業内容”で7つに整理。各類型ごとに起こりやすい場面・共通要因・5分でできる点検リストを示します。
結論から言えば、最も多いのは**「受配電設備内の活線近接」「送配電線路の近接・重機接触」、次いで「屋内配線の逆接・誤認」。そして下請け階層化単独作業**がリスクを跳ね上げます。


7つの事故多発“作業”類型

1. 送配電線路の近接作業(伐採・建柱・高所作業車)

典型シーン

  • 伐採した枝や幹が想定外に反発・回転して活線部に近接/接触

  • 建柱車や高所作業車のブーム離隔不足のまま旋回・上昇

  • 現場条件(風・傾斜・周辺工作物)変化を班内で再共有しないまま続行

共通要因

  • 離隔基準の事前算定不足(可動域・反発角・吊荷振れを含めていない)

  • 監視員不在や合図の混乱、立入区分の曖昧化

  • マンネリ化(「いつも大丈夫だった」)による近接軽視

5分点検

  • 風向・反発方向・ブーム可動域を現地で模式図化し共有

  • 監視員の専任立入区分(カラーコーン・バー・看板)を設置

  • 最小離隔の読み上げ(誰が言ったか分かる声で/復唱)

  • 重機旋回・上昇前に**“停止→指差呼称→OK合図→駆動”**を徹底


2. 受配電設備(キュービクル等)内の通線・結線

典型シーン

  • 盤内でケーブル通線中、銅バー(通電)へ近接/接触

  • 絶縁養生の範囲不足、配線ルート変更がその場判断

共通要因

  • 停電計画の不徹底(計画はあっても“作業直前の検電”がない)

  • 遮へい・養生の不足(バー・端子が見えている)

  • 二次請け以降への手順書・図面未配布

5分点検

  • 停電→施錠・表示→“作業直前”の検電→短絡接地を作業者本人が確認

  • 露出充電部へ硬質養生(規格品)立入禁止表示

  • 図面の版数通線ルートを、班全員で声に出して復唱

  • 絶縁用手袋・保護具の劣化点検(ピンホール、期限、サイズ)


3. 受配電設備の点検・清掃・軽微作業(“ちょっとだけ開ける”)

典型シーン

  • 点検窓やカバーを外し、通電部が見えている状態で清掃・締付

  • 「計器を見るだけ」「写真だけ」のつもりで接近限界を跨ぐ

共通要因

  • 軽作業扱いで安全措置を省略

  • 狭小盤室での姿勢変化(しゃがみ→起立)による誤接触

  • 単独作業での判断ミス

5分点検

  • **“軽作業でも活線近接は同じ”**の原則を掲示

  • 接近限界ラインの床マーキング(テープ)

  • 片手作業・姿勢管理・工具絶縁被覆の再点検

  • 単独作業禁止(少なくとも同席者の復唱を条件に)


4. 撤去・段取り確認中の誤接近(仮固定・仮設解体)

典型シーン

  • 撤去対象の一部が活線系統に残存しているのに、無電化と誤認

  • 仮設材や押さえ金具を外した瞬間に導通ルートが変わる

共通要因

  • 系統切替・段取り変更の口頭共有のみ

  • 識別ラベル不足/旧ラベル残置

  • “終盤だから”の焦り

5分点検

  • 撤去前に系統図へ赤入れ(残存・活線・無電の色分け)

  • ラベルを現場で貼り替え/旧ラベル剥離までやる

  • 「段取り確認のみ」でも検電→接地を実施(時間を惜しまない)


5. 屋内配線・照明器具での逆接・誤結線

典型シーン

  • コンセントや照明回路で電源・負荷の逆接、プラグ抜去時に電源側露出

  • 調光器・センサ混在回路で相序/極性思い込み

共通要因

  • 単独作業、ラベル/回路図の不整合

  • 既設系統の流用で検電省略

  • 試験・通電確認の順序ミス

5分点検

  • 極性・相序をテスター/検電器で実測ラベル貼付

  • プラグ/コネクタの切り離しは**“無電確認→写真記録→抜去”**

  • 単独作業時は電話スピーカONでの復唱手順を必須化


6. 太陽光・蓄電池・自家用発電機の連系・切替

典型シーン

  • 逆潮流・バックフィードの想定漏れ

  • PCSや蓄電池の自動再起動を失念

  • 非常用発電機試験後の切替戻し忘れ

共通要因

  • 元系統/非常系統/分散電源の役割と位相の理解不足

  • 試験モード→常用移行手順書が曖昧

  • ステッカーや結線図の現地整備不足

5分点検

  • **「全電源停止条件」**を文書化し、誰が・どこで確認するか明記

  • 連系遮断器の位置表示(機械表示+タグ)をダブルで

  • 試験後の復旧チェックリストを読み上げ→署名


7. 仮設電源・延長コード・分電盤の暫定使用

典型シーン

  • 仮設分電盤の漏電遮断器容量/感度不適合

  • コードの被覆損傷・水濡れ養生なし

  • 班長不在時の増し増し使用(たこ足)

共通要因

  • 工程遅延による“とりあえず”運用

  • 雨天対策の甘さ(屋外配線・仮設照明のIP等級軽視)

  • 誰の管理物か不明な仮設が残置

5分点検

  • 漏電遮断器の動作試験適正感度の確認(記録残し)

  • 延長コードの全長目視(被覆・コネクタ・防水)→不適合は即交換

  • 仮設品に管理者名・撤去予定日を明記したタグを付与


類型をまたぐ“4つの根本要因”

  1. 情報共有の断絶

    • 一次→二次→三次で図面・手順書の版ズレ、口頭伝達のみ、当日変更の紙残しなし。

    • 対策:「版数」を声で確認配布先の記名リスト運用、当日変更は必ず赤入れ+写真

  2. “作業直前”の検電欠落

    • 前日に検電済み=安全ではない。人の出入り・切替・再起動で状況は変わる。

    • 対策:停電→施錠・表示→直前検電→短絡接地を“読む・やる・記録する”。

  3. 単独作業・軽作業扱い

    • 「見るだけ」「拭くだけ」「写真だけ」で近接限界を突破

    • 対策:単独禁止を原則に、やむなし時は電話復唱+動画記録で“擬似二名体制”。

  4. 離隔・姿勢の設計不足

    • 離隔は静止寸法ではなく、揺れ・反発・旋回の動的余裕まで含めて設計。

    • 対策:可動域スケッチ監視員の専任指差呼称の定着


事故はどこで“止められた”か──ヒヤリ・ハットの分解

  • 第1の関門(計画段階):停電計画・切替手順・連系条件の文章化

  • 第2の関門(現地到着)KY(危険予知)シートで**“今日の要注意3つ”**を書き出す。

  • 第3の関門(作業直前)直前検電・短絡接地養生

  • 第4の関門(作業中)指差呼称立入監視変化(風・人・工程)発生時の中断宣言

  • 第5の関門(復旧)復旧チェックリストの読み上げと署名

いずれも5分~10分でできる行為で、**“中断する勇気”**が最後の砦になります。


すぐ貼れる!「5分点検カード」サンプル(A4掲示想定)

共通(全作業)

  • 今日触れる可能性がある充電部を3つ書いたか

  • 停電→施錠・表示→直前検電→短絡接地を声出しで確認したか

  • 単独作業なし(やむなし時は電話復唱+動画

  • 立入区分はテープorバーで目に見える形にしたか

送配電線路・伐採・建柱

  • 最小離隔(mm)と可動域をスケッチ化

  • 監視員の氏名立ち位置を決めたか

  • 風・傾斜・反発の再評価タイミングを決めたか

受配電設備(通線・点検・撤去)

  • 露出充電部の養生ラベルを確認

  • 図面の版数を復唱(v●●)

  • 復旧時の切替順を読み上げ→署名

屋内配線・照明

  • 相序・極性をテスターで実測→ラベル

  • プラグ切離しは無電後に写真記録

  • 漏電遮断器の試験ボタンを押した記録


事故事例に学ぶ“声掛けの型”──言い回しを統一する

  • 直前検電しました、OKです」→「復唱:直前検電OK

  • 旋回します。停止よし、離隔よし、周囲よし、旋回

  • 変更あり。作業中断、KYを更新します

  • 復旧読み上げ開始。主遮断器OFF、連系遮断器OFF…

現場の言葉は短く、肯定形で、誰が言ったか分かる声量に統一しましょう。


協力会社・二次請けに効く“配布パック”の作り方

  1. 一枚図(最新版):受電点~分岐~現場、危険部位は赤、無電予定は青。右上に版数と日付

  2. 当日差分シート:変更点のみを赤入れで追記。

  3. 手順ショート版:停電→施錠・表示→直前検電→短絡接地→養生→作業→復旧。

  4. 復唱カード:主要チェック項目に□を付けて読み上げ式に。

  5. 記録テンプレ:写真(盤内、養生、検電、復旧)→ファイル名の型を固定。


管理者向け:教育と評価のKPI

  • 教育:月1回、10分間の“盤内KYミニ研修”(写真1枚から危険3つを言語化)

  • 評価

    • 直前検電の写真記録率(目標90%以上)

    • 単独作業率(ゼロを目標に)

    • 中断宣言件数(“多い”ことを称賛する)

    • 版ズレ指摘件数(“見つけた人”を表彰)


よくある質問(FAQ)

Q. 軽微な点検でも停電は必要?
A. 活線部に近接する可能性が1%でもあるなら必要です。最低でも直前検電と養生は外せません。

Q. 二次請け以降にも全部配るべき?
A. 配らない前提で計画しないこと。版数と当日差分まで含めて配付し、配布リストに記名を。

Q. 雨天で仮設を使い回すのは?
A. IP等級・漏電遮断器感度を満たさない仮設は使用禁止。“一時凌ぎ”ほど事故率が跳ねます


まとめ──“準備に時間をかけるほど、作業は速く安全になる”

  • 事故は受配電設備内の活線近接送配電線路の離隔不足屋内配線の逆接に集中。

  • 根本は情報共有の断絶直前検電の欠落単独・軽視

  • 5分点検カード復唱写真記録が最もコスパの高い対策です。

現場は今日も動いています。**“中断する勇気”**をチームの文化にしましょう。
——私たちは、誰一人、感電で失わない現場を目指します。

 

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